地震のとき、私は東京にいました。
ビルの8階にいたのでかなり揺れて怖かったですし、その日に帰阪できなくなりました。
しかし、私が直接受けた影響はそれだけです。
自立循環型住宅研究会の会員のみなさんの中には、それよりもずっと大きな影響を受けた方がいらっしゃると思います。
まずはその方々に何らかの言葉を伝えたいと思うのですが、言葉になりません。ひとりの人間として、またこの業界にいる人間として、今後できることをやっていきたいと考えています。
すでに様々な人から「これまでよりもずっと速く、高いレベルの省エネルギーが必要だ」というメッセージをいただいています。
それは間違いのないことでしょう。もちろん私も同じ思いです。
そういった意味で、今後ますます我々の役割は大きくなると思いますし、そうあらねばならないと思っています。
福島原発の事故による影響は極めて大きなものとなっています。
私は原発について様々な思いがあり、その思いを受けて具体的な行動を取ってきたつもりです。省エネルギーに関わる仕事をしたのは、そうした思いもひとつの理由になっています(もちろん原発のことだけではありませんが…)。
先月出版された「省エネ・エコ住宅設計 究極マニュアル」では、「化石燃料と核燃料ではエネルギーを取り出す方法がまったく異なるため、同じ枯渇性エネルギーであってもその扱いが違ってきます」と書きました。その一文には、私の思いが凝縮されています。この一文を入れたのも、またこの程度の表現に留めたのも、私の様々な思いの結果です。
今回の事故や放射線の健康リスクについては、つい先ほど新建ハウジングの4月号(プラスワン)に私が原稿を寄せることが決まりました。要望があれば様々な機会で、私が持ち得ている知識や理解についてご紹介していこうと思っていますが、とりあえずはそこに公表されることなるので、ぜひ読んでください。
今後この会がどのような方向に進んでいくかについては、いまのところまだはっきりとは決めていません。もう少しだけ様子を見てから決めようと思っています。ただ「何かを減らす」ということはあり得ず、「何かを増やす」ということになると思います。これまで進めてきた活動を粛々を進めることを原則として、そのスピードをどうするか、また新たに加えるべきものをどうするかについて検討していきます。
ひとつ、いまの段階で私からみなさんに伝えたいことがあります。
それは「省エネにだけに過大な価値を置いてほしくない」ということです。
今後今回の地震被害についての詳しい分析はあると思いますが、建築物の構造の重要性がますます明らかになってくると思います。そこでどんなスタンスで目の前の仕事や将来の仕事に向かっていくかは個人の判断によります。ただ、省エネのことと同じくらいの価値と意義をもって構造のことに向かっていってほしいと思います。もちろん細かくは様々な「別の価値や意義」はあるでしょう。しかし、この2つが私たちの仕事においてより基本的であり、それを同時に考えていくべきだと思います。
これは、「この会の活動テーマに構造を加える」という意味ではありません。ただ、この会を主宰するものとして、みなさんにお伝えしかたっただけです。
またみなさんはそれぞれの立場で、何らかの形で被害に遭われた方々の支援をしたいと思われているでしょうし、実際にそうした支援を始めた方もいらっしゃると思います。もしまだ具体的な行動を始めておられない方は、ぜひ何らかの形で始めていただきたいと思います。私は「自分がすぐにできること」と判断して、先ほど義援金を振り込んできました。
繰り返しになりますが、この会の役割はさらにとても大きなものになると思っています。社会のために、地域のために、目の前のお客さんのために、自分や家族のために、そして将来の子供たちのために、これまでよりもさらに積極的にこの会の活動に関わっていただくことを願います。
2011年3月22日 自立循環型住宅研究会 主宰 野池政宏